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​アスリートインタビュー

​元カヤック女子日本代表 鈴木裕美子さん
穏やかな水

大学生で、レーシングカヌーに出会い、日本代表選手へ。

一見聞くと競技への出会いは遅いように感じます。そんな、鈴木さんが女性アスリートとして、どのようにリテラシーを高め、日本人初の入賞を果たしたのか、、、引退後の活動も含めてお話をききました。

-競技に出会ったきっかけを教えてください。

 

鈴木

私は、中学生まで、クラシックバレエ、高校生ではバレーボールをしていました。武庫川女子短大へ入学しし、新しいスポーツを初めようと模索をしていましたが、なかなか面白そうな部が見つからなくて、、そんな時に高校の恩師に「カヌー部へ入部しろ!」と半ば脅迫的に言われて、友人と誘い合わせて部活体験に行きました。それが初めてのカヌーとの出会いです。しかし、いざ体験すると、まったく、思い通りに乗れなかったんです。カヌーを漕ぐどころか、乗ることすらままならない。。。。それがもう悔しくて、悔しくて、入部しました笑。

入部して、コツをつかめるようになると、次々ステップアップができました。初めてのことだったので、上達するのが面白くて。吸収が早かったのだと思います。3か月後の関西学生選手権で3位、同年のジュニアインカレで優勝することができました。ここで、達成感や勝つ喜び、周囲の人が褒めてくれ、認めてもらえる嬉しさを感じたと同時にチーム内での選手同士の切磋琢磨していく楽しさを得ました。

 

-すごいステップアップですね。高校の恩師の先生は才能を見越していたのでしょうか

 

鈴木

いえ、違うと思います笑。中学でのバレエやバレーボールで培った体幹トレーニングなどがいきたとのだと自分では思っています。

 

-大学4年生で初めて日本代表に選ばれていますが、そのころから世界で戦うことを意識し始めたのでしょうか

 

鈴木

同じカヌー部には、日本代表でオリンピックに出場された先輩2人いらっしゃいました。その先輩方の背中を見て、自然と日本代表は意識していたと思います。ただ、世界で戦うことは、大学4年生で初めて日本代表として出場した世界選手権で全く戦えなかったことを経験してからです。その試合を例えると、大人(他国)と子供(日本)がレースを競っている。そのぐらい、日本の女子カヌー界の力は低かったのです。

 

世界との差を知った鈴木さんは、カヌー競技強国のドイツへ単身で渡ることに。

そこで見えたのは何だったのか。

 

鈴木

とにかく来る日も来る日もカヌー、カヌー、カヌーでした。私はそのためにドイツに来たのだし、何の疑問もなく練習をしていました。

そのチームには、金メダリストも在籍していて、練習でしたが、スタートをきったと思ったら、数メートル先にみんながいました。もう、がっかりでしたが、楽しさがありました。なんといっても世界1の取り組み方を見られるですから。

 

-世界1の取り組みとは?

 

鈴木

「自分で考えて選択する」ということです。トレーニングメニューはコーチから提案されます。しかし、どんな練習をやりたいのかは、自分次第。「私は今日、その練習は○●だからしたくない」としない人がいたり、たとえ、40度の熱があってもする人もいました。すべては自分で考えて選択して、その責任は自分にあるという姿勢です。そのためには、様々なことを知る必要があります。カヌーのこともカヌー以外のこと例えばカラダやトレーニングをはじめ、生活全般全てのことで、知識や情報を得て、自分で選択をしていくのです。

あまりにもカヌーの練習しかしていない私に、ドイツ人コーチは、「本当にカヌーが人生だと思っているのか、うまくなりたいのか?」と質問され、「はい」と返答をすると、「では、その過ごし方は間違っている」とアドバイスをもらいました。練習を休んで、ドイツの街を楽しんだり、食べ歩きをして食文化を知ったり、生きることに必要なものは全部カヌーにつながっているだと教えられました。そこから、私はカヌーだけの日々から休みをとって、散歩をしたり、街にでかけて買い物をしたりする生活にシフトして、日本とドイツの様々な違いを知るようになりました。そうすると、自分はドイツ人と同じトレーニングをするのは違うなぁなど、この環境の中で自分は何を選択するのかを考えるようになり、不思議なことに改めカヌーが好きなことにも気がつきました。

ドイツでの過ごし方が変わり、少しずつ練習についていけるようになり、地元の小さな大会では勝てるようになってきた、鈴木さん。

他の選手からライバル視されるようにもなってくると更に世界で勝つことがイメージできてきた。その後の取り組みをうかがっていきます

 

コンディショニングの取り組みにも変化がありましたか?

 

鈴木

はい。ドイツで見たこと、触れたことすべてが「本気で勝ちたい」という強い気持ちに変わり、それが具体的になり「オリンピックで、カヌー界日本女子初の決勝進出」という形(目標)になりました。目標が明確になると同時に、ワールドカップ等、世界の試合で結果がでるようになりました。

世界の試合に出場するようになると、移動も含めスケジュールが過密になってきます。またトレーニングメニューもより過酷なものに変わっていきます。なので、コンディショニングに対しての向き合い方も変わりました。私がまず取り組んだのは、「食」に対しての考え方の見直しです。強くなるために、食事を見直して、勝つためのカラダをつくろうと思いました。練習日誌と照らしあわせて自分がどういうものを食べると翌日の翌朝が楽なのか、体重、体脂肪の変化はどうなのかなど客観的に観察していきます。それと同時に今、この時期に何をどのくらい食べると筋量が増えるのか、どのタイミングでどんなものを食べると疲労回復が促進されるのか、体脂肪を増やさないためには、間食はどうするのかなど栄養の様々なことを学び、自分にあった継続できることを取り入れるようにしました。そして、休息や睡眠もしっかりとるようにしました。

そうすると、カラダが楽になってきたり、試合後半のバテにくさを感じたり、様々な体調の変化が現れてきました。

 

-なぜ、食事だったのでしょう

 

鈴木

「食」を変えることで、自分のカラダや体調が変わることを知っていたからです。私がそれを知るきっかけになったのもドイツです。

ドイツに行ったとき、私のスーツケースはサプリメントであふれていました。ドイツでは自炊も適当になり食事をおろそかにして、「サプリメントでとればいいか」という考えになっていました。それを見たコーチに「裕美子、この意味はわかっているのか?」と問いかけられました。「私たちのカラダは長きにわたって食べた物、栄養でしかつくられていないんだよ。ドーピングがなぜいけないのいってごらん」と聞かれ、「特別なものをいれることになって、リスクがあがりフェアじゃないから」と答えました。そうすると、「それはわかっていて、君はこんな大量にサプリメントを継続的になぜとるの?ドーピングと何が違う?もっと食事を大切にしなければいけない。裕美子のカラダは食事でできているんだから」と。本当にその通りだなと思いました。サプリメント先進国だと思っていた、ドイツのコーチから言われたこともまた衝撃でした。

 

-コンディショニングをする上で、女性アスリートのならでは難しさがあるのは月経。当時は月経に関連する悩みはありましたか?

 

鈴木

生理痛がきつかったです。アジア選手権のトイレであまりの痛さに気絶をしました。これはいけないと思い、JISSで相談し、診察していただきましたが何も問題はなし。そこで、ピルを服用し始めました。副作用はないと説明を受けていましたが、私はむくみを感じました。月経中は重心があがり思うように自分でカラダのコントロールができず、動きづらさを感じますのでパフォーマンスが上がりません。なので、ピルで試合の日は月経にならないように調整をしていきました。

ただ、どうしてもピルへの不安、例えば不妊につながるとか今は副作用がないといわれていることも10年後には違うことが言われるかもしれない。。。という思いがぬぐえませんでした。私は、食事を改善したり、生理痛改善に良いと言われることを色々と試しました。試合日には月経がこないように、念じたり笑、、、そのおかげか、少しずつ月経痛も軽減していきました。

 

-無月経は経験したことはありませんでしたか?

 

鈴木

半年くらい無かったこともありました。危機感は全くなく、「あーなくて楽だわー」という程度です。無くなることのこわさを私たちに世代では、情報が行きわたっていませんでした。カラダを追い込んだから無くなるものだというそれだけの認識です。

 

-今は、女性アスリートの三主徴のひとつとして無月経は広くアナウンスされるようになりました。

 

鈴木

無月経は心身が追い込まれているサインです。私のように、ないのは楽だなで済まさずにその原因を模索してほしいです。

同時に指導者の方も知っていただきたいです。知識不足から休息をとらない年間のトレーニングスケジュールだったり、指導者の不安からの練習量の増加。そうすることで、食べても消費カロリーに追いつかなかったり、練習のきつさから食べられなかったり、その結果、利用可能エネルギーが不足して無月経に繋がるということを。

指導者は男性の割合が非常に多く、月経について相談しづらいこともあるかもしれません。だからこそ自部自身のカラダを知りカラダのサインに慎重になるべきです。

女性アスリートリテラシーを高めるのは、競技パフォーマンス向上につなげることのみならず、競技を引退した後の長い人生を考えた上でもとても大切なことだからです。

 

-女性アスリートたちへのメッセージをお願いします。

 

鈴木

自分の目標を自分自身で明確にしてもらいたいです。そこが明確になれば、現在の課題が見えどういうカラダが必要で、今、何をするのかがはっきりしてきます。

その中で、アスリートのコンディションには必ず波があります。その波に目をつぶらずに、自分でカラダの声を読み取り自分自身で改善していくこと。それには、知識がないとできません。それがアスリートとして勝つために必要です。

そして、アスリート人生は短いです。多くの人は、引退後の人生のほうが長くなります。

私は、引退後アスリート人生の中で得た「食」を大切にすることを子供たちへ普及する活動をしています。今、日本は、肥満や生活習慣病などの健康問題が深刻です。運動、食事、休養、どれもアスリートがコンディショニングをしていく上で欠かせないものです。この健康問題の解決ができるもの、またアスリートのコンディショニング力だと思います。

私は、たまたま「食」でしたが、休養のとりかたや運動の習慣化などもコンディショニングのプロであるアスリートが発信できることではないでしょうか。ただ、人に伝わるように話しをすることができるのは、自分自身で実践してきた人だけです。

短いアスリート時代に得た大きな力を人に伝えることも、応援してくださった方々への恩返しのひとつではないかと考えています。

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